左室収縮能が低下した慢性心不全、いわゆるHFrEF(EF<40%)。
HFrEFの生命予後や入院回避を期待できる薬剤は、
① ACE阻害薬/ARB
② β遮断薬
③ MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
の3剤併用療法とされていました。
(2017年改訂版の『急性・慢性心不全診療ガイドライン』)
これが
『2021年 JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療』
では、
① ACE阻害薬/ARB/ARNI(angiotensin receptor neprilysin inhibitor)
② β遮断薬
③ MRA
④ SGLT2阻害薬
の4剤併用療法の有用性が示されました。
ARNIとSGLT2阻害薬が新しい治療薬として認められたということになります。
今回の記事では、ARNIについてまとめます。
その前にまずACE阻害薬とARBについて振り返ります。
ACE阻害薬
ACEを阻害することでアンギオテンシンⅡの産生を減少させ、アンギオテンシンⅡの直接作用である血管収縮、心筋線維化を抑制し、また交感神経抑制作用もあります。またブラジキニンの分解抑制により血管拡張やナトリウム利尿も期待できます。これらの作用により心筋のリモデリングを抑制することで予後を改善します。心不全への適応のあるACE阻害薬はエナラプリル(商品名:レニベース)とリシノプリル(商品名:ゼストプリル、ロンゲス)の2剤です。
ARB
ACE阻害薬はアンギオテンシンⅡの作用を間接的に阻害するのに対し、ARBはアンギオテンシンⅡ受容体を直接阻害することで、作用を発揮します。アンギオテンシンⅡはRAS系以外の経路でも産生されるので、ACE阻害薬で阻害しきれなかったアンギオテンシンⅡの作用も阻害することができます。ただブラジキニンへの作用はありません。臨床試験の結果、ARBはACE阻害薬と同等の効果があるとされています。心不全への適応があるARBはカンデサルタン(商品名:ブロプレス)のみとなっています。ACE阻害薬に忍容性がない場合の代替薬であり、またACE阻害薬との併用の効果はないとされます。
それを踏まえてARNI(商品名:エンレスト)。
ARNIはナトリウム利尿ペプチドの分解酵素であるネプリライシンの阻害薬(サクビトリル)とARB(バルサルタン)の合剤です。
ナトリウム利尿ペプチドが増加することで、血管拡張やナトリウム利尿が期待できます。
ただネプリライシン阻害によりRAS系の作用増強の副作用が生じてしまうため、それを打ち消すためにARBが配合されています。
このARNIは臨床試験の結果、HFrEF患者の予後をACE阻害薬よりも20%程度改善することが証明されました。そのため、欧米の心不全ガイドラインではACE阻害薬もしくはARBを投与しているHFrEF患者に、効果が不十分な場合にARNIに置き換えることが推奨されるようになりました。
まとめは以上です。
今回の記事は
『日本内科学会雑誌 February 10 2022』と
『ARNIとSGLT2阻害薬についてシンプルにまとめてみました』を参考に作成しました。
新時代の心不全加療を学ぶのに最適な本です。
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