辺縁系脳炎について

今回は辺縁系脳炎についてまとめてみます。 


大脳辺縁系は脳の中でも原始的な領域であり、海馬、帯状回、扁桃体などが含まれます。

それらは情動や記憶などを司っています。

この大脳辺縁系に起きる脳炎が辺縁系脳炎です。

▪️ 症状

辺縁系脳炎を発症すると扁桃体や海馬の機能障害を反映して、情動異常や記憶障害が見られます。またうつや不安、錯乱や痙攣など多彩な神経症状が起こりえます。

数週間から数ヶ月かけてゆっくり進行することもあれば、数日で症状が進展することもあります。


▪️ 原因

原因としては、ウイルス感染症と自己免疫性に大きく分かれます。

ウイルス感染症

単純ヘルペスウイルス(HSV1, 2)、帯状疱疹ウイルス(VZV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV-6:小児に突発性発疹を起こす)などのヘルペスウイルスのほか、

インフルエンザウイルスエンテロウイルスが原因になりえます。


自己免疫性

腫瘍性病変に伴う自己抗体の産生で、多彩な神経症状を示すことがあり、傍腫瘍性神経症候群と呼ばれます。この症候群の中の一つとして辺縁系脳炎が存在します。


辺縁系脳炎の背景疾患となりうる腫瘍は以下の通り。

肺小細胞癌(40%)、精巣腫瘍(20%)、乳癌(8%)、卵巣奇形腫ホジキンリンパ腫胸腺腫が知られています。


上記の腫瘍性疾患に伴って自己抗体が産生されます。腫瘍によって出やすい自己抗体が決まっています。

抗Hu抗体、抗Yo抗体、抗Ma2抗体などのほか、

抗NMDA 受容体抗体、抗AMPA受容体抗体(両受容体ともにシナプス後膜に局在するグルタミン酸受容体で、グルタミン酸の刺激により陽イオンを透過させるチャンネル)、

抗VGKC抗体(神経系の電位依存性カリウムチャネル)などが知られています。


この中で最も有名なのが、卵巣奇形腫がある女性に起きる抗NMDA受容体脳炎です。

映画『エクソシスト』や『彼女が目覚めるその日まで』の題材になったことでも有名です。


そのほか膠原病関連として橋本病、SLE、シェーグレン症候群、関節リウマチが背景疾患になりうることが知られています。


▪️ 治療

ウイルス性である場合は抗ウイルス薬の投与が行われます。

傍腫瘍性である場合は、腫瘍の摘出が行われます。

またステロイドパルス、免疫グロブリン、シクロフォスファミドなどが行われます。


あまり出会うことの少ない疾患ですが、映画にもなっていますし、知っておくべき重要疾患です。



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