『ワニの涙』という言葉があります。
ワニが獲物を食べるときに、まるで獲物の命を奪ったことが悲しいかように、涙を流しながら食べることから、『偽善者の嘘泣き。不誠実。』の意として用いられる感情表現です。
ワニやカメ、海鳥などは体内の過剰なナトリウムを体外に排泄する『塩類腺』という器官を目の周囲に持っています。その塩涙腺から分泌された塩水が、涙のように目からこぼれ落ちるのです。つまりワニは獲物がかわいそうだと思っているわけではなく、電解質補正をしているだけなのです。
本質的には違う現象ですが、人間にも『ワニの涙現象』と呼ばれる、
食事に伴った流涙がみられることがあります。
〜末梢性顔面神経麻痺の後遺症である『ワニの涙現象』〜
顔面神経は表情筋の運動神経のほか、涙腺(大錐体神経)、アブミ骨(アブミ骨神経)、舌下腺や顎下腺(鼓索神経)に分枝を出します。
そのため、末梢性顔面神経麻痺を起こした後には、顔面麻痺だけでなく、上記の器官に障害が出ることがあります。
神経障害の急性期がすぎた後、神経の再生が始まります。
障害が軽度の場合は、元の道筋に沿って神経機能が回復していきます。
しかし障害が重度の場合は受けた神経は中枢側から末梢側に向けて、元の道筋とは関係なく伸びていくことがあり、神経の誤支配と呼ばれます。
よって食事をとった際に、本来であれば舌下腺や顎下腺などの唾液腺への神経に入力されるところが、神経の誤支配によって涙腺へ入力されることが起きます。
それが『ワニの涙現象』の機序といえます。
今回の記事は『外来診療のUncommon Disease vol.3』を参考に作成しました。
これを読むとまだまだ知らない疾患があるなと思い知らされます。
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