謎の多い病気、一過性全健忘とは

 半年に一度程度の頻度で一過性全健忘の患者さんを診ることがあります。

かなり特徴的な病歴なので、一度診察すると次回からすぐに診断にたどり着けます。

逆に言うと、初めて出会った場合は戸惑うことが多いと言えるでしょう。


筋トレや大熱唱のカラオケ、冷温水への暴露など強い刺激の後に、前向性健忘と逆行性健忘が同時に訪れます。


患者さんは診察中に『自分は何をしていたのか』『ここはどこなのか』といったことを繰り返し質問してきます。

ただ幸いなことに一過性全健忘はその名の通り、一過性であり24時間以内に症状が治ります。

繰り返す場合はてんかん性健忘との鑑別が必要で、脳波検査が必要になります。


この一過性全健忘は病態が不明な部分が多いとされています。

頭部MRIを撮影すると、短期記憶を司る海馬のCA1と呼ばれる領域にに拡散強調画像で高信号が出現することがあるため、海馬の一過性の機能不全が原因と言われています。


つまり大雑把な病態としては、強い身体負荷、精神負荷が何らかの形で海馬CA1のニューロンの脆弱性をもたらすことで発症する一過性の記憶障害と言えます。

今後はCA1ニューロンの脆弱性をきたすカスケードの解明が望まれるところです。

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