新型コロナウイルス感染症が社会問題となっているため本屋さんに行くと感染症コーナーが設けられています。前回の記事にした『怖くて眠れなくなる感染症』の近くに置いてあった本、『感染症大全』を今回は読んでみました。この本は医学書というより一般向けに書かれた雑学書のような内容となっていました。
著者の堤先生は病理医であり、中でも感染症病理が得意な先生のようです。
前回に引き続き、今回も私が気になったポイントに絞ってまとめていきます。
◆ 日本紅斑熱
日本紅斑熱はマダニが媒介する細菌感染症で、菌名はリケッチア・ジャポニカです。発熱、皮疹、ダニの刺し口が3徴です。
この疾患の分布が面白くて、伊勢神宮、熊野古道、出雲大社、四国お遍路の南部地域、天草などです。つまり、昔のままの森が残るパワースポットと呼ばれている地域に多いのです。
◆ ミュータンス菌
虫歯の原因になるミュータンス菌。緑連菌の仲間でグラム陽性球菌です。
この菌は新生児の口腔内には存在せず、親などからスプーンやお箸などを介して感染してしまいます。乳歯が生え始めた後の一定期間までは口腔内の常在細菌叢が完成しておらず、この時期に感染がおきます。逆にいうとこの時期に感染しなければ、ミュータンス菌が生着できず、一生虫歯が起きない可能性があります。
救急医:私も妻も虫歯になったことがないため、おそらくうちの子供は虫歯にならないはずです。
◆ サルモネラ
生卵を摂取することで発症する細菌性腸炎の代表例です。サルモネラは鶏の腸内に常在しています。鳥類の排泄腔は、哺乳類とは違って膀胱と膣と直腸が一つにまとまっているため、産卵のときに卵のからに便が付着してしまうようです。
救急医:鳥類の排泄腔という器官を初めて知りました。哺乳類と鳥類では体の構造が大きく違いますね。
◆ ビブリオ・ブルニフィカス
劇症型溶連菌感染症は人食いバクテリア症と呼ばれますが、この菌による感染症も同じく人食いバクテリア症と呼ばれます。この菌は汽水域に多く生息していて、夏場、水温が20度を超えると増殖するため、河口から沿岸域の貝類、エビ、カニ、近海ものの魚類、特に岩牡蠣に多いとされます。この菌は増殖に鉄を必要とするため、肝細胞の機能が低下した肝硬変患者の血液には鉄の血中濃度が高いため、肝硬変患者は感染リスクが高くなります。水温が低くなる冬場の牡蠣はリスクが低いようです。
救急医:肝機能が低下している人は夏場の生ものに注意です。
◆ 髄膜炎菌
アフリカ中央部の赤道に沿う地域は「アフリカ髄膜炎ベルト」と呼ばれ、乾季の12-6月には毎年のようにアウトブレイクが起きています。アフリカの学校で髄膜炎菌による髄膜炎が流行し、多くの子供たちが死亡することもあるようです。髄膜炎菌は飛沫感染するため、同居人に感染者がいる場合、500-4000倍罹患リスクが上昇します。
救急医:髄膜炎菌は低温に弱いデリケートな菌というイメージがありましたので、インフルエンザのように飛沫感染し学校で髄膜炎が流行することがあるなんて思いもよりませんでした。怖いです。
◆ 広東住血線虫
アフリカマイマイというカタツムリを生で食べたり、接触することで感染する寄生虫です。
感染後2週間で髄膜炎を起こし、髄液中に好酸球が増加することが特徴的です。日本では半数以上が沖縄県から報告されています。このカタツムリは「死のカタツムリ」と呼ばれている一方で、エスカルゴとして世界中で食べられています。
救急医:カタツムリを生で食べることはないと思いますが、接触でも感染しうるとは、なんということでしょう。
◆ 顎口虫
淡水魚を生で食べると感染する寄生虫です。食べてから2週間後に幼虫が皮膚を蛇行し、幼虫が通った後が赤くなり痒くなります。幼虫は皮膚の下を5cm/時間のスピードで移動します。治療は外科的に虫を取り除くことですが、虫が通って一定時間が経過したのち、アレルギー反応がおき皮膚が赤くなるため、赤い先端にはすでに虫はいません。超音波検査で虫を探して摘出するしかないようです。
以上がまとめです。
私は今までの診療の中で寄生虫感染症に出会ったことはありません。
いつもとは違い、説明がつかない病変があれば、一度は寄生虫感染症を鑑別にあげたほうがよさそうですね。
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