ブラックジャックの解釈学

今回は珍しい視点の本を読んでみました。


ブラックジャックの解釈学』。


漫画のブラックジャックの描写を、現役の内科医が現代の医療の知識を用いて再考察し検証するという内容です。漫画が題材ではありますが、臨床医、医学生、ブラックジャックファンを対象とした医学書として書かれている、新しい視点の本だと思いました。


私はブラックジャックを読んだことがありませんでしたので、臨床医としての目線で読み進めました。



ブラックジャックの連載期間は1973-1983年であり、現代の医学では明らかになっている多くの疾患が未知の疾患として論文に報告されている時期でした。そんな時代背景の中、ブラックジャックの著者である手塚治虫氏は未知の疾患の詳細な疾患描写を行うことで、現代でも色あせる事のない病態の表現を行なっています。


手塚治虫氏は医師免許は取得していたものの、漫画作成を活動の主体にしていたため、臨床経験はあまりなかったようで、これらの表現は、当時の最新の文献を綿密に読み込んだ結果としてできたものだと考えられます。


著者はこの手塚治虫氏の描写から、現在の医療知識を使って診断の鑑別をしていきます。著者が鑑別していく様は以前、NHKで放送されていた『総合診療医 ドクターG』を彷彿とさせます。当時では明らかになっていなかった疾患を扱っているため、診断が間違っていたり、他疾患との混同もあったりしますが、その描写は驚くほど詳細で鮮明です。



12の漫画のシーンが著書の中に登場します。救急医である私が一番印象に残ったのはやはり、第6章の『救命救急医としてのブラックジャック』です。




プレホスピタルケア(病院前診療)ダメージコントロールサージェリー蘇生的開胸術など現代の救命救急センターで行われている概念、処置が漫画が書かれた40-50年前に記載されている事は驚きでした。


手塚治虫氏は大阪大学医学部を1951年に卒業しています。この時代の日本は経済成長に伴い、交通事故が多発し死亡例が増加していました。そのため重症患者を専門的に受け入れる救命センターの設置が急がれ、大阪大学に日本で最初の特殊救急部が1967年に設立されました。先ほども記載しましたが、ブラックジャックが連載されていたのは1973-1983年ですので、手塚治虫氏は母校の救急部の設立を受けて、漫画に反映させたようです。



そのほかのシーンでは、抗NMDA受容体脳炎やたこつぼ型心筋症、劇症型抗リン脂質抗体症候群など、現代になってようやく明らかになった疾患像も登場します。


時を経て読み継がれる漫画を作るには、大変な努力が必要ですね。


ブラックジャック。大人買いしてみたくなりました。




ブラックジャックの解釈
こちらから購入できます

コメント