シリーズ人体 遺伝子 第2部

前回の記事では非コード領域のDNA情報がコード領域(遺伝子)の発現量を調整して多様性を生み出していることを学びました。第2部では遺伝子の発現にスイッチを入れる役割のDNAスイッチ(番組の造語)についてまとめていきます。




◇癌抑制遺伝子のスイッチ

DNAスイッチは遺伝子一つに対して複数個あると推定され、数十万個はあると言われています。スイッチはオンかオフかだけではなく少しオンなど中間の状態も存在していると言われています。DNAスイッチのオン・オフとはDNAメチル化酵素がDNAにメチル基を付着させることで遺伝子をコードしているDNAが折り畳まれ読み取り(転写)できなくなったり、脱メチル化酵素により折り畳みが解かれたりする状態のことです。癌抑制遺伝子は誰しも10種類以上持っている遺伝子ですが、それがなんらかの影響でDNAスイッチによりオフになると癌化しやすくなります。


◇DNAスイッチは努力で切り替えられる

地中海食や運動など健康に良いと言われているものは単に体重を適正化するだけでなく、糖尿病や癌、心筋梗塞に関するDNAスイッチのオン・オフに関与することがわかってきました。『生まれ持ったDNAは不変』は古い考え方なのです。ランニングは脳の神経細胞を成長させる遺伝子の折り畳みをほどき、記憶力をアップさせます。癌患者さんにDNAメチル化酵素の作用を弱める薬剤を投与すると、癌抑制遺伝子の折り畳みが解消され、癌の消失効果があることもわかっています。


◇メタボは遺伝する

教科書では獲得形質は遺伝しないと習いましたが、これは現在の遺伝学では実は間違っていることがわかりました。スウェーデンの地理的に隔離された地域での疫学調査でのこと。祖父が若い頃に穀物が大豊作となり肥満になりました。すると人の体は今は食料がたくさんあるから食べて体に貯蓄しようとスイッチが入ります。実はそのスイッチオン状態が息子、孫の世代まで継がれ、みなさん肥満になったそうです。これはマウスの実験でも確かめられていて、カロリーの多い食事を摂らせて肥満にさせたマウスの子供は、通常のカロリーの食事をとったにもかかわらず体脂肪が1.7倍になったそうです。孫マウスも通常カロリーで育てましたが、体脂肪が1.2倍になったそうです。また一定の匂いを嗅がせた後に電気刺激を与え続けたマウスの子供はその匂いを嗅ぐだけで体をすくませる行動を取るようになるそうです。獲得形質は遺伝する、つまりDNAスイッチのオン・オフ情報は遺伝するということが明らかになりました。自分は経験したことがない景色をみたなんてスピリチュアルが好きな人がいいますが、あながち間違いではないのかもしれませんね。現在では子作りする前に体を鍛える人がいるようで精子トレーニングと呼ばれています。


◇宇宙兄弟

NASAで一卵性双生児を使った実験が行われました。双子Aが宇宙ステーションに340日間滞在した後と出発する前のDNAスイッチと地上に残った双子BのDNAスイッチを比較したところ、出発する前の双子Aと双子BのDNAスイッチは同じでしたが、宇宙ステーションから帰還後の双子AのDNAスイッチは異なっていました。双子AのDNA修復スイッチ(宇宙線による被爆が刺激となった)や骨を作る物質を増やすスイッチ(無重力状態だと骨が脆くなるため)がオンになっていたのです。宇宙など行ったことがない環境でも体が適応しようとしていること、そしてそれは1世代でDNAスイッチが変化することがわかりました。


第2部の内容は以上です。DNAメチル化酵素の働きにより遺伝子が折り畳まれることで遺伝子の発現を調整し変化する環境に適応しようとする体の仕組みについて学ぶことができました。第1部では非コード領域によるコード領域(遺伝子)の調整、第2部ではDNAスイッチによるコード領域(遺伝子)の調整について記載されていました。持っている遺伝子は変えることはできないけど、調整の部分を変化させることで遺伝子発現を変えることができることがわかりました。これからは親の遺伝だからと言い逃れができなくなります。





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