『NHKをぶっこわーす』をキャッチフレーズにした国会議員がいますよね。私は彼の主張は調べていないのでよく分かりませんが、NHKのドキュメンタリー系の番組はとてもよく出来ていると思っています。特にNHKスペシャルは毎回録画していますので、ぶっ壊して欲しくないです。ぶっ壊してより良い番組ができれば賛成ですけどね。
この本はNHKスペシャルの取材班がシリーズ人体 遺伝子という番組を作成し、その内容をまとめたものです。私は医師ですが、所属が救急科であり普段の診療では遺伝子について検討する場面はありません。この本では遺伝子がそんな私にも良くわかるように(遺伝子について全く知らない方でも)、丁寧に解説されています。
◇ゲノムの非コード領域について
私たちを構成している一つ一つの細胞の中には核と呼ばれる球体の構造物があります。その中にDNAが入っています。DNAの情報はゲノムと呼ばれ、30億もの塩基が対をなして構成されています。なんとこのDNAを真っ直ぐに並べると2mの長さになるそうです。あんなに小さな細胞の中に2mものひもが入っているなんて信じられません。
このゲノムの中で私たちの体を構成するタンパク質をコードしている領域は2%ほどで、後の98%は非コード領域と呼ばれ、どのような役割があるかわからず、今まで研究が進んでいませんでした。一時期はジャンクDNAとかDNAのゴミとかひどい言われようだったそうです。未知のものをゴミと呼ぶなんてあまりに雑な科学者がいたんですね。近年はその領域の科学者でさえ驚くスピードでこの非コード領域の解析が進んでいるようです。
◇DNA顔モンタージュ
非コード領域を解析することで様々ことがわかってきました。容姿、才能、性格など個性はこの非コード領域がコード領域(つまり遺伝子)を調整することで多様性が生まれるようです。顔に関するDNAは数年前まで10-20個程度しか明らかになっていませんでしたが、最近では1万カ所以上発見されています。唾液一滴からDNAを抽出し、その人の顔を推定することができるようになり、アメリカでは犯行現場に残された犯人のDNAから顔を推定し逮捕に結びついて例が20件を超えています。
◇長寿DNA
長寿の人を調査したところ、喫煙や飲酒、運動不足など不健康なライフスタイルを送っている人が多く、また疾患を発症しうるDNA変異も多数見つかった一方で、その疾患を発症していないことがわかりました。さらにこれら人は疾患を抑制するDNAが発現していることも明らかになりました。つまり長寿の人が健康でいられるのは、健康的なライフスタイルを送っているからでも、疾患を引き起こすDNA変異がないからでもなく、疾患抑制DNAが発現しているからということが明らかになったのです。そしてそのDNAは非コード領域から見つかっています。確かにタバコを吸っても肺気腫にならない人ってたまに見ます。
◇ニュートリゲノミクス
健康番組などで『これを食べると癌にならない』とか『血圧が下がる』とかよく聞きますが、これも全員に当てはまるわけではないことがわかってきました。アルコールと同じくカフェインにも遺伝的に分解が得意な人と苦手な人がいます。分解が得意な人がコーヒーを飲むと心筋梗塞になるリスクが減少しますが、苦手が人が飲むと逆に心筋梗塞になるリスクが上がってしまいます。つまり人によって効果が逆になることがあり、健康番組の情報は鵜呑みにできないということになります。ゲノム情報から最適な栄養を考える学問をニュートリゲノミクスと呼ぶそうです。
◇人は今も進化している
インドネシアのスラウェシ島にバジャウと呼ばれる海洋民族がいます。彼らは素潜りで10分以上、海中で漁をすることができ、水深70mまで潜ることができます。彼らの潜水能力の秘密は脾臓にあります。彼らの脾臓は通常の1.5倍のサイズがあり、酸素不足になると脾臓に貯蓄した酸素化された血液を利用するそうです。脾臓を大きくする物質を多く生み出すDNAを非コード領域に持っているためと推測されています。また同じような事例でチリのアンデス地方にヒ素を解毒できる民族がいるようです。これらからわかることは人は現在も進化をしているということです。生物の進化はコード領域の遺伝子変異によって起きると思われていましたが、非コード領域の変異も進化に関与しています。受精するときに誰でも70個の突然変異が起きていて、そのほとんどが非コード領域で起きているそうです。この変異は人が絶え間ない環境変化を生き抜くためのメカニズムでもあります。
◇ヒーローDNA
疾患の治療薬の開発につながるDNA、ヒーローDNAを持っている人がいます。心不全合併の2型糖尿病に有効と言われているSGLT2阻害薬もその一つです。ポルトガル在住の女性のSGLT2に関するDNA変異の発見から創薬につながりました。また家族性高LDL血症の治療薬であるPCSK9阻害薬やエイズの治療薬であるCCR5阻害薬も遺伝子研究から創薬につながった例です。
第1部のまとめとしては、今までジャンクDNAと呼ばれ解析の進んでいなかった非コード領域から重要なDNA(コード領域の遺伝子を調整するDNA)が発見され、容姿や才能などの個性や、長寿DNA、人の進化に関わるDNAなどが次々に明らかになっているということでした。長くなってしまったので第2部は次の記事で書こうと思います。
★シリーズ人体 遺伝子★
この本はNHKスペシャルの取材班がシリーズ人体 遺伝子という番組を作成し、その内容をまとめたものです。私は医師ですが、所属が救急科であり普段の診療では遺伝子について検討する場面はありません。この本では遺伝子がそんな私にも良くわかるように(遺伝子について全く知らない方でも)、丁寧に解説されています。
◇ゲノムの非コード領域について
私たちを構成している一つ一つの細胞の中には核と呼ばれる球体の構造物があります。その中にDNAが入っています。DNAの情報はゲノムと呼ばれ、30億もの塩基が対をなして構成されています。なんとこのDNAを真っ直ぐに並べると2mの長さになるそうです。あんなに小さな細胞の中に2mものひもが入っているなんて信じられません。
このゲノムの中で私たちの体を構成するタンパク質をコードしている領域は2%ほどで、後の98%は非コード領域と呼ばれ、どのような役割があるかわからず、今まで研究が進んでいませんでした。一時期はジャンクDNAとかDNAのゴミとかひどい言われようだったそうです。未知のものをゴミと呼ぶなんてあまりに雑な科学者がいたんですね。近年はその領域の科学者でさえ驚くスピードでこの非コード領域の解析が進んでいるようです。
◇DNA顔モンタージュ
非コード領域を解析することで様々ことがわかってきました。容姿、才能、性格など個性はこの非コード領域がコード領域(つまり遺伝子)を調整することで多様性が生まれるようです。顔に関するDNAは数年前まで10-20個程度しか明らかになっていませんでしたが、最近では1万カ所以上発見されています。唾液一滴からDNAを抽出し、その人の顔を推定することができるようになり、アメリカでは犯行現場に残された犯人のDNAから顔を推定し逮捕に結びついて例が20件を超えています。
◇長寿DNA
長寿の人を調査したところ、喫煙や飲酒、運動不足など不健康なライフスタイルを送っている人が多く、また疾患を発症しうるDNA変異も多数見つかった一方で、その疾患を発症していないことがわかりました。さらにこれら人は疾患を抑制するDNAが発現していることも明らかになりました。つまり長寿の人が健康でいられるのは、健康的なライフスタイルを送っているからでも、疾患を引き起こすDNA変異がないからでもなく、疾患抑制DNAが発現しているからということが明らかになったのです。そしてそのDNAは非コード領域から見つかっています。確かにタバコを吸っても肺気腫にならない人ってたまに見ます。
◇ニュートリゲノミクス
健康番組などで『これを食べると癌にならない』とか『血圧が下がる』とかよく聞きますが、これも全員に当てはまるわけではないことがわかってきました。アルコールと同じくカフェインにも遺伝的に分解が得意な人と苦手な人がいます。分解が得意な人がコーヒーを飲むと心筋梗塞になるリスクが減少しますが、苦手が人が飲むと逆に心筋梗塞になるリスクが上がってしまいます。つまり人によって効果が逆になることがあり、健康番組の情報は鵜呑みにできないということになります。ゲノム情報から最適な栄養を考える学問をニュートリゲノミクスと呼ぶそうです。
◇人は今も進化している
インドネシアのスラウェシ島にバジャウと呼ばれる海洋民族がいます。彼らは素潜りで10分以上、海中で漁をすることができ、水深70mまで潜ることができます。彼らの潜水能力の秘密は脾臓にあります。彼らの脾臓は通常の1.5倍のサイズがあり、酸素不足になると脾臓に貯蓄した酸素化された血液を利用するそうです。脾臓を大きくする物質を多く生み出すDNAを非コード領域に持っているためと推測されています。また同じような事例でチリのアンデス地方にヒ素を解毒できる民族がいるようです。これらからわかることは人は現在も進化をしているということです。生物の進化はコード領域の遺伝子変異によって起きると思われていましたが、非コード領域の変異も進化に関与しています。受精するときに誰でも70個の突然変異が起きていて、そのほとんどが非コード領域で起きているそうです。この変異は人が絶え間ない環境変化を生き抜くためのメカニズムでもあります。
◇ヒーローDNA
疾患の治療薬の開発につながるDNA、ヒーローDNAを持っている人がいます。心不全合併の2型糖尿病に有効と言われているSGLT2阻害薬もその一つです。ポルトガル在住の女性のSGLT2に関するDNA変異の発見から創薬につながりました。また家族性高LDL血症の治療薬であるPCSK9阻害薬やエイズの治療薬であるCCR5阻害薬も遺伝子研究から創薬につながった例です。
第1部のまとめとしては、今までジャンクDNAと呼ばれ解析の進んでいなかった非コード領域から重要なDNA(コード領域の遺伝子を調整するDNA)が発見され、容姿や才能などの個性や、長寿DNA、人の進化に関わるDNAなどが次々に明らかになっているということでした。長くなってしまったので第2部は次の記事で書こうと思います。
★シリーズ人体 遺伝子★
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