AKIまとめ

救急やICUではよく遭遇するAKI。
今回はそのAKIについてまとめてみました。

以前は急激な腎機能低下は急性腎不全呼ばれ、統一された定義や診断基準はありませんでした。ただその後の研究で重症患者の半数以上に急性の腎障害が生じていることや、Cr 0.3mg/dL程度の上昇でも死亡率を上げる予後不良因子であることなどが判明し、腎障害を早期のうちに認知する意義が再認識されるようになりました。

そのような流れからAKI(acute kidney injury=急性腎障害)という概念ができ、RIFLE(2004年)、AKIN(2007年)などのAKI診断基準が作成されました。2012年にはRIFLEとAKINを組み合わせたKDIGOが作成され、AKIの診断・評価の指標として国際的な標準となっています。




私たちがAKIを認識した時に常に評価・介入すべき以下に記載する下記に記載する5つのことがあり、AKI bundleと呼ばれています。

①緊急透析の絶対適応がないか確認する
A:アシドーシス(pH≦7.15)、I:中毒(intoxication)、U:尿毒症(uremia)、E:K≧6mEq/L(electrolyte)、O:利尿薬抵抗性うっ血性心不全(over load)

このAIUEOがあれば緊急透析の絶対適応です。ただ代謝性アシドーシスのみが透析導入基準に該当する場合はメイロン投与のみでしのげる可能性もあります。

②腎前性、腎性、腎後性の鑑別
まずエコーで腎臓と膀胱を見て腎後性の除外をします。次にIVCと心機能を見て腎前性の除外をします。腎前性は脱水や出血など循環血漿量減少で起きるイメージがありますが、うっ血性心不全による腎血流低下(腎うっ血と呼びます)でも起きるため心機能も確認します。腎後性と腎前性が除外できたら後は腎性を考えます。腎性では障害の主座が尿細管or 間質 or 糸球体 or 血管のどこにあるかを鑑別します。尿検査では急性尿細管壊死では顆粒円柱、尿細管上皮が出現します。急性間質性腎炎では白血球尿(好酸球)、白血球円柱が、糸球体腎炎では変形赤血球、赤血球円柱が出現するため鑑別に有用です。

『腎性AKIの分類』
https://drive.google.com/file/d/1C3yCVPRV5Cgrf70ZI7n1Lh8RJxpmyXCR/view?usp=sharing

③循環血漿量と平均血圧の最適化
循環血漿量としてはhypovolemiaおよびhypervolemiaではなくnorvolemiaを目指します。平均血圧としては通常65mmHg以上を目指しますが、高血圧の既往のある人であれば80mmHg以上の維持が腎機能の予後改善が見込める可能性が示唆されています。

④薬剤調整
重症患者ではAKIの約20%に関連していると言われています。利尿薬は循環血漿量を減らし、NSAIDSは輸入細動脈を収縮、ACE阻害薬・ARBは輸出細動脈を拡張させることでそれぞれ糸球体濾過量を減少させ腎機能を低下させます。その他、腎障害をきたす薬物は多いため、それらを原則中止します。疾患の急性期は腎機能は刻々と変化するため投与する薬剤の量も調整する必要があります。

⑤原疾患が治療できているかの確認
①〜④をしているにも関わらず、腎機能が悪化するときは原疾患の治療がうまくいっていない可能性がありますので、治療内容を見直してみましょう。

上記がAKI bundleです。それぞれは一般的な内容ですが、確実にこなしていくのが大切だそうです。

◇腎前性と腎性の鑑別をさらに
実際の臨床現場では腎前性と腎性を明確に鑑別することは困難なことが多いです。輸液反応性をみて鑑別するfluid challengeというものがあります。0.5-1L、時には数Lの輸液蘇生を行い、血圧上昇とともに尿量増加が見られ翌日のCrが低下していれば腎前性と考えることができます。血圧上昇が見られたのに、輸液量に見合わない乏尿が継続しCr増加が見られれば腎性の可能性があります。このfluid challengeは溢水のリスクがあり、判定に数時間以上かかってしまうことがデメリットとしてあります。

そこで近年は尿中バイオマーカー(NAG、L-FABP、NGAL)を両者の鑑別に用いる試みがなされています。尿量やCr値は腎臓の機能的障害を見るものであり、腎前性、腎性ともに異常値となるため鑑別には使えません。一方で尿中バイオマーカーは尿細管の器質的障害を見るものです。尿細管は低灌流や虚血に弱く急性尿細管壊死を起こします(腎性)。そのため上記の尿沈査所見と尿中バイオマーカーを組み合わせて鑑別に用いることができるのです。

◇AKI重症度進行予測
KDIGO stage 1または2の患者に1.0mg/kgのフロセミドをボーラス投与し、その後2時間の尿量が200ml未満であった場合は、stage 3への進行が予測されます。このフロセミド負荷試験は尿中バイオマーカーよりも高い精度でstage進行を予想できるとされています。

◇RRT導入のタイミング
絶対適応ではない場合にどのタイミングでAKIに対してRRT(腎代替療法)を開始したら良いかの明確なエビデンスは現在のところありません。KDIGO stage 3やRIFLE Failureのようにかなり腎障害が進んだ状態では絶対適応を満たす前にRRTをするメリットは乏しいと言われています。またKDIGO stage 2のうちにRRTをすれば転帰改善の可能性があると示唆されていますが、現在のところエビデンスは低く、多施設共同のRCTが進行中です(STARRT-AKI tial)。

◇CRRTとIRRTについて
最新の主要なガイドラインではCRRT(持続的RRT)、IRRT(間欠的RRT)の治療効果は同等とされていますが、循環が不安定な患者ではCRRTの方が管理しやすいとされます。CRRTからIRRTへの移行は循環が落ち着いたら考慮を始めます。必要とする除水量が3-6時間で達成可能であればIRRTへ移行します。2016年のBEST kidney studyのサブ解析ではCRRTの離脱成功予測因子として尿量が最も鋭敏でした。そのためRRTからの離脱は尿量1000ml/日または利尿薬を用いて2000ml/日以上を目安にします。

◇AKIとCKDの関係
AKIから腎機能が改善した症例でも、長期経過中に半数近くがCKDに移行すると報告があります。またAKIの症例の30%にCKDが存在するとの報告もあります。維持透析導入のハザード比はAKI単独で13、AKI on CKDで41.2でありCKD単独の8.4よりも大幅に腎予後が不良とされています。また高齢者、糖尿病、高血圧、心不全、低アルブミン血症もAKIからCKDへ移行するリスクであり、AKIを離脱した後でもフォローアップが必要です。

以上AKIについてまとめてみました。救急科では患者さんが退院したのち長期にフォローアップすることはありませんので、AKIがCKDに移行するという印象は持っていませんでした。近医にフォローアップをお願いする時にこの辺りを意識してみようと思いました。


参考図書
『レジデントノート 集中治療の基本、まずはここから!』
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758116367/

『Hospitalist 総合内科のための集中治療』
https://www.medsi.co.jp/products/detail/3698

『集中治療、ここだけの話』
https://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=104550

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